抵触日とは?

本章では、派遣の抵触日について基礎概要を説明します。具体的には、事業所単位、個人単位で分類されることや、通知方法などの基本的な内容です。初歩とはいえ、案外漠然と解釈している方も少なくありません。確実におさえましょう。
3年ルールと抵触日
派遣労働者を受け入れる際、彼・彼女らを同一事業所で雇える期間は原則3年です。これは、派遣法第40条に定められていることで、一般的には「3年ルール」として知られています。
そして抵触日とはずばり、上記の期間が満了した翌日です。派遣先は派遣会社にこの日を通知しなければなりません。
抵触日の種類
抵触日には、「事業所単位での抵触日」と「個人単位での抵触日」の2種類に分けることができます。前者は同一の事業所に対して、後者は同一の組織に対してのものと捉えてください(個人単位を“組織単位”と表現することも少なくありません)。
どちらも派遣可能な期間が切れた翌日が抵触日であることは変わりません。が、事業所抵触日に関しては、派遣先が派遣社員の継続的な受け入れを希望する場合、過半数労働組合などへの意見聴取を行うことで延長が可能です。一方で個人での抵触日は延長の概念がありません。継続勤務にはあくまで事業所抵触日の延長が前提です。そのうえで部署(課・グループ)の異動であれば、引き続き同じ企業内で雇うことができます。
以下、あらためて各定義と期間制限について補足します。
事業所抵触日
事業所の定義は次のとおりです。
- 工場、事務所、店舗など場所として独立
- 人事・経理・指導監督・働き方など経営として独立
- 一定期間継続する施設として成立
これらの観点から、実態に即して判断されます。また、雇用保険の適用事業所に関する考え方と基本的には同じです。
期間制限については、派遣先の同一事業所に対し原則、3年が限度です。派遣先が3年を超えて派遣社員を受け入れようとする場合は、(派遣先の事業所における)過半数労働組合などからの意見を聴く必要があります。
個人抵触日
個人単位の定義は次のとおりです。
- いわゆる課やグループなど、業務としての類似性や関連性があり、組織の長が業務配分、労務管理上の指揮監督権限を有するもの
上記が実態に即して判断されます。
期間制限については、派遣先の同一事業所に対し事業所抵触日同様、3年が限度です。課やグループを変えれば、引き続き3年を限度として同一の労働者を派遣することができますが、これは事業所単位の派遣可能期間が延長されていなければなりません(その際、派遣先は同一の派遣労働者を指名するなどの特定目的行為を行わないようにする必要があります)。なお、派遣労働者の従事する業務が変わっても、同じ部署内(個人単位内)であれば、派遣期間は通算されます。
抵触日を通知する方法
派遣先の企業は新たな派遣契約を締結する際、派遣元に対してあらかじめ抵触日の通知を行う必要があります。※通知する抵触日は、事業所抵触日のみです。個人単位での抵触日は、通知する必要はありません。
方法としては、事業所名や所在地とあわせて抵触日を記載した書面を電子メールで送信するだけで構いません。なお、各労働局ではダウンロードして使えるフォーマットが用意されています。
大阪労働局の場合:事業運営に係る各種様式等
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抵触日が設けられている理由

抵触日はなぜ設けられているのでしょうか。その理由を紐解くには歴史とセットで考えることが大切です。背景がわかれば、抵触日の必要性をさらに解像度高く把握できるでしょう。
労働者派遣法の歴史
労働者派遣法は、大まかに述べると、適正な派遣事業の運営と派遣労働者の雇用安定、福祉の増進が狙いです。そのため、度々改正されています。たとえば、かつての派遣可能な業務はソフトウェア開発や事務機器操作など専門的な知識・技能を有する16種類に限られていました。こうした状況下から労働者派遣法はテコ入れされ、規制が次第に緩和されていきます。と同時に派遣の需要は企業間でどんどん拡大するようになったわけです。他方、一部の派遣労働者は安い賃金で扱われることも少なくなく、「ワーキングプア」や「ネットカフェ難民」など社会格差を助長する存在としてマイナスイメージが根付くことも。そこで2012年は、派遣労働者を保護すべく、日雇派遣の原則禁止やグループ企業内の派遣規制、直接雇用者の離職後1年以内の派遣労働受け入れ禁止……等々が改正によって実施されます。
そして2015年、抵触日が設けられます。
▶関連記事:労働者派遣法とは?改正の歴史を通じて内容をわかりやすく解説
代替防止
抵触日が設けられた理由の一つは、派遣スタッフの常用代替を防止するためです。派遣という働き方は、元来「臨時的・一時的」なものでした。にもかかわらず派遣スタッフが、正社員と全く同じ内容の業務を行える状況は、すなわち常用代替が成り立つことを意味し、元来の役割が失われることになります。そこで、抵触日を設定。派遣スタッフが働ける期間を制限したわけです。
正社員登用への意識付け
抵触日と切っても切り離せないのが3年ルールです。派遣労働者のなかには社会的・経済的に不安を覚える方も少なくありません。また、手軽な労働力として扱われてしまうこともしばしば散見されます。
では3年経過後、抵触日を設けることはそれらの抑止力になるのでしょうか。答えはYESです。というのもこれは派遣先に対して、安定した雇用、つまり正社員登用を促す意味があります。そう、企業側は正社員登用への意識付けを行い管理していくことが大事なのです。
なお、有期雇用で受け入れを開始した後に、その派遣社員が無期雇用に転換し、無期雇用の派遣社員となった場合、抵触日は存在しないことになります(次項でも説明します)。
抵触日の制限を受けない条件

派遣労働者のなかには、抵触日が適用されないケースや条件があります。具体的には以下の方々です。
無期雇用の派遣労働者
派遣には、有期雇用と無期雇用があります。後者はその名のとおり、無期限での派遣契約です。定期的に契約を結びなおす有期雇用と違い、無期雇用の場合、個人抵触日だけでなく事業所抵触日も適用されません。
▶関連記事:無期雇用派遣とは?メリット・デメリットや戦略、注意点を解説
60歳以上の派遣労働者
60歳以上の派遣労働者は、労働者派遣法により契約期間の制限がありません(したがって、抵触日の制限を受けません)。これは60歳以上の労働者の場合、雇用面が問題視される可能性の低さや、再就職の難しさが理由です。
日数限定業務に従事している派遣労働者
派遣先の所定労働日数に対して半分かつ月10日以下に限定された業務に従事する派遣労働者は、抵触日の制限を受けません。
代替業務に従事している派遣労働者
派遣先において産前産後休業、育児休業、介護休業を取得する正社員の代替業務を担当する派遣労働者は、抵触日の制限を受けません。
有期プロジェクトに従事する派遣労働者
有期プロジェクトに従事する派遣労働者は、抵触日が適用されません。(当初の予定どおり)そのプロジェクトが完了するまで契約が続きます。
抵触日はリセットされる?

抵触日以降に同一組織の業務に従事できなかった派遣スタッフは、「リセット」によって再びその組織で雇うことが可能です。
以下、リセットについて説明します。
クーリング期間とリセット
抵触日から3ヶ月と1日が過ぎるまで派遣社員を雇わなければ、リセットできます。いわゆるこのクーリング期間が経過することで、以前まで雇っていた派遣社員を再び受け入れられるわけです。リセットは、個人単位も事業所単位も関係なく適用されます。
リセットのメリット・デメリット
正社員や無期雇用への転換を望まない派遣労働者に対しては、3ヶ月のブランクこそ発生するもののリセットによって効率よく雇い続けることができます。ただそうはいってもやはり、クーリング期間は負担がつきものです。人手不足であっても人員補充の判断が悩ましいかもしれません。
有給休暇もリセットされる
クーリング期間は、いうなれば3年間の就業実績をリセットするというルールのもと定められています。それは有給休暇も同様です。派遣スタッフに対しては(継続して付与されるものと)誤解を与えないよう気を付けましょう。
リセットは推奨されていない?
派遣労働者の雇用安定やキャリア形成を図るために3年ルールは存在します。それは、とりもなおさず派遣という雇用形態を脱し、キャリアアップにつなげることが狙いです。しかしながら、リセットを使えば再び派遣社員として雇用することになります。これは、いわば労働者派遣法の趣旨に反する行為です。場合によっては、そのような派遣先は指導対象になる可能性もあります。
事業所抵触日の延長に必要な意見聴取について

先述のとおり事業所抵触日は、当該事業所の過半数労働組合に対して意見聴取の手続きを行うことで延長できます。過半数労働組合が無い場合は、過半数代表者(労働者の過半数を代表する者)が対象です。手続きは、その事業所において役務の提供が開始された日から抵触日の1ヶ月前までに行う必要があります。
意見聴取のための資料作成
企業側は意見聴取の際に参考となる資料を提示しなければなりません。具体的には「派遣期間」「これまで受け入れてきた派遣労働者数」「無期雇用に転換した派遣労働者の推移」などの情報を記載します。とはいえ形式含めて特にルールはありません。
意見聴取で異議があった場合
意見聴取を行った際、過半数労働組合または過半数代表者から異議があった場合、派遣先は法の趣旨に則り抵触日の前日までに以下の事項を説明しなければなりません。
- 派遣可能期間延長の理由や期間
- 異議に対する対応方針
場合によっては、派遣労働者の受け入れ自体、再検討することも必要です。
事業所の労働者への周知
意見聴取については、事業所の労働者に対して周知が必須です。具体的には、以下の事項を書面に記載して共有します。
- 意見聴取先に当たる過半数労働組合の名称または過半数代表者の氏名
- 意見聴取先に書面通知した日と項目
- 意見聴取の実施日と内容
- 意見聴取後に決まった延長期間
また、前項で説明したとおり、異議申し立てがあった際は、次の事項も説明しなければなりません。
- 派遣可能期間延長の理由、期間
- 異議に対する対応方針
上記の書面は、延長前の派遣可能期間が経過した日から3年間の保存が義務付けられています。
派遣会社への結果通知
意見聴取を終えたなら、派遣先は派遣会社にもその結果を書面で通知しなければなりません(書式は派遣会社で用意されている場合がほとんどです)。この通知を受けてようやく、派遣会社は期間延長の契約を結ぶことができます。
手続きの注意点
意見聴取の手続きを適正に行えるよう、以下のポイントはしっかり念頭に置くようにしましょう。
- 意見聴取の範囲
- 過半数代表者の条件
- 手続き上の不備(が無いようにする)
意見聴取は事業所ごとに行う
意見聴取の対象は、事業所ごとです。仮に事業所が各支店や営業所など複数あった場合、それぞれ実施することになります。
過半数代表者の選定方法に注意
過半数代表者は、労働基準法第41条第2号に定める「監督又は管理の地位にある者」以外でなければなりません。また、投票、挙手などの民主的な方法によって選出された者であることが必須条件です。これを守らなければ、事実上意見聴取が行われていないものとみなされます。
不備があると延長は認められない
いうまでもなく、延長手続きを不備があるまま進めてしまってはいけません。不備があるにもかかわらず継続して派遣労働者を勤務させた場合、労働者派遣法違反に該当します。
派遣社員の雇用には抵触日の理解が必須!

派遣社員を雇用する際は、抵触日の理解は必須です。拙稿にてお伝えしてきた内容をあらためて整理します。
まずは3年ルール。同一企業で継続して雇える期限は原則、3年です。そしてその翌日がずばり抵触日に当たります。事業所抵触日は延長することも可能です。ただし、正式な手続きを行わなければ認められません。また、抵触日以降もクーリング期間を過ぎれば再度同じスタッフを派遣雇用できるリセットという制度があります。が、従業員のキャリアアップを阻害することにもなりかねないため、労働者派遣法の観点からは推奨されてはいません。そうはいってもやはり、派遣社員を必要とする企業は数多存在します。派遣会社との関係構築も含めて、人材確保には常日頃目配りしておいた方がよいでしょう。
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