人的資本経営とは?

人的資本経営とは、企業が従業員の知識や能力、経験を資本とみなして活用する、昨今話題の経営手法です。その根底には「企業価値を高めるためには人材の価値を引き出すことが不可欠」といった考えがあります。いうなれば、人材をコストと扱うのではなく投資するものとして捉えていくスタンスです。
実際のところ、経済産業省も人的資本経営を次のように定義しています。
人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方です。
人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~ (METI/経済産業省)
また、この取り組みが広い範囲で重視されていることがわかるエピソードを伝えると、たとえば投資家たちは、企業の将来性をジャッジする材料として人的資本に関する情報の開示を強く求める傾向にあるようです。そして、この潮流は、今後ますます加速していくと思われます。
人的資本経営のガイドライン
2018年12月に国際標準化機構(ISO)が人的資本に関する情報開示ガイドラインを発表しています。これはISO30414と呼ばれる、内部及び外部のステークホルダーに対する指針です。人的資本の貢献を考察したうえで透明性の向上を図ろうと定められました。
具体的には次のとおりです。事業の種類、規模などにかかわらず、すべての組織で適用されます。
人的資本エリア | 評価判断に使われる指標 |
---|---|
コンプライアンスと倫理 | ビジネス規範に対するコンプライアンス |
コスト | 採用、雇用、離職といった労働力のコスト関連 |
ダイバーシティ | 労働力とリーダーシップチームの特徴 |
リーダーシップ | 従業員の管理職への信頼など |
組織文化 | 従業員意識(エンゲージメントなど)と従業員定着率 |
健康、安全 | 労災関連など |
生産性 | 人的資本の生産性と組織パフォーマンスに対する貢献 |
採用、異動、離職 | 人事プロセスを通じ適切な人的資本を提供する企業の能力 |
スキルと能力 | 個々の人的資本の質と内容 |
後継者計画 | 対象ポジションに対して、どの程度承継候補者が育成されているかなど |
労働力 | 従業員数など |
従来の経営との違い
あらためて人的資本経営は、従来の経営とは何が違うのでしょうか。大きく異なるのはやはり、人材を資源とみるか資本とみるかです。たとえば前者は年功序列や終身雇用で人材の囲い込みが主流でしたが、後者は相互依存からの脱却が行われています。つまりは個の自律です。これは、企業も労働者も人的資本経営では、両者がいわば流動的な立場(選び選ばれる関係)にあることを意味します。また、かつてはオペレーション志向がほとんどだった人事管理業務が、いまや経営戦略に紐づくなかでクリエーションやイノベーションを巻き起こそうとしている点もエポックメイキングな変化です。まさしく人材を投資と捉えるこの経営スタイルによって、企業価値のさらなる向上が期待できます。
人的資本経営が注目される背景

ここ数年、人的資本経営が注目を集めている背景には一体何があるのでしょうか。本章にて、いくつか考えられる理由を挙げていきます。
働き方の多様化
以前に比べても明らかに働き方の多様化が目立つ現代では、組織と個人の関わりも大きく変化したといえます。正社員、契約社員、アルバイト・パート、派遣社員、業務委託、リモートワーカー、副業……等々雇用形態はじめ組織のなかで従業員の属性に広がりがみられれば、一緒くたに管理するのはさすがに無理があるでしょう。ゆえに一人ひとりをどう活用していくのが最適か、すなわち人的資本経営の考えへとシフトするのは当然の流れかもしれません。
ESG投資の増加
ESGとは「Environment (環境)」「Social(社会)」「Governance(統治・管理)」の頭文字です。これらはサステナビリティ、すなわち企業の持続可能性を示唆するものとして(評価指標として)扱われ、投資を行うステークホルダーにとって近年特に重視される傾向にあります。そしてそれは、俗にESC投資と呼ばれます。ここで肝要なのは、人的資本経営が無関係でないことです。ずばり「Social(社会)」「Governance(統治・管理)」に含まれます。こうした背景からESG投資に対して人的資本経営を推し進める企業も少なくありません。
ESG | 概要 |
---|---|
Environment | 森林伐採、海洋温泉、温室効果ガスなどを巡る環境問題への取り組み |
Social | ジェンダー、教育格差の問題に対する取り組みや社会の安定への貢献 |
Governance | 貧困問題や労働環境、セーフティネットなど社会保障の整備・拡充 |
第4次産業革命
AIの進化は新たな産業革命(第4次産業革命)の訪れを告げ、市場の成熟を一層加速させています。と同時に、各企業の技術力を画一的に丸め込もうとする脅威でもあり、ゆえに競合優位性が得難くなっているのも確かです。だからこそ、差別化を図るべくクリエイティブな人の力が求められています。そう、まさしく人的資本です。先進的な企業ほどイノベーションの創出にはデジタルだけでなく人材の価値が大切だと気付いています。今後もロボットが台頭すればするほど人的資本経営の重要性が高まっていくといえそうです。
国内外での人的資本経営の情報開示や特徴について

上場企業約4,000社に対して、2023年3月期の有価証券報告書から人的資本に関する情報の開示が求められるようになりました。これは、2023年1月の内閣府令にて公布されています。他方、海外に目を向けるとアメリカではすでに義務化が進んでいる状況です。このように日本と欧米では、確実に違いがあります。
本章では情報開示に対する動きに加え、人的資本経営とどのように向き合っているか、国内外での特徴がわかるようお伝えします。
情報開示に対する欧米の動き
すでにお伝えしているとおり、2018年に発表されたISO30414に基づく情報開示について、欧州では一部の企業がいち早く行っています。アメリカに関しても、2020年8月の時点で特筆すべき動きへと発展。米国証券取引委員会(SEC)が上場企業に対し、人的資本の情報開示を義務化しています。
情報開示に対する日本の動き
人的資本の情報開示に対して日本国内で動きがみられた契機はまず、2020年9月の経済産業省が「人材版伊藤レポート」を公表したことが挙げられるでしょう。そのなかでは、持続的に企業価値を向上させるべく、人材戦略に関する経営陣・投資家それぞれの役割やステークホルダーの行動変容を促す方策などが(検討された模様が)報告されています。
また、2021年6月には、上場企業が遂行すべき企業統治のガイドライン「コーポレート・ガバナンスコード」が改訂。そこで「人的資本に関する開示・提示」と「取締役会による実効的な監督」が追加されたことは大きな進歩だったと思います。
さらには2022年8月、政府は人的資本化可視化指針として「企業の人的資本の開示に関する指針」を公表。そして上述したとおり、2023年3月期より有価証券報告書で人的資本に関する「戦略」と「指標及び目標」の開示が求められる状況に至っています(2023年1月に公布)。
欧米における人的資本経営
まず欧米は、ジョブ型雇用が主流です。そのため、対象の職務を遂行するうえでふさわしいスキルや実務経験を持つ人を採用していきます。いうなれば、労働者側は専門性を培い肩書を得ていくといった主体的なキャリア構築を行い、企業側はその内容を精査したうえで持っている仕事に各人をつけていくわけです。キャリアチェンジにおいても求職者がMBAの取得などでその分野を極めんとすれば、成果につながる確からしさを見定めたうえでフレキシブルに雇っていく土壌があります。一足早く情報開示を促してきたことからも取り組み強化の姿勢がうかがえますが、そもそも人的資本経営とは親和性が高かったともいえるでしょう。
日本における人的資本経営
日本企業では長くメンバーシップ型雇用が主流でした。いわゆる終身雇用制度や新卒一括採用などが象徴的です。が、この傾向は徐々に変化を見せ、ジョブ型雇用を積極的に取り入れる企業も増えてきています。その背景には、少子高齢化に伴う労働力の減少や、急速なグローバル化が挙げられますが、同様に人的資本経営の考えが浸透されるようになってきたことも大いに考えられます。そして現在、どのような現象が起きているかというと、一部ではジョブ型、メンバーシップ型、両方の特性をうまく活用できている企業もみられるようになったのです。さまざまな部署での業務を経験することで個人が企業をより深く理解した結果、全体最適につながるケースはまさに最たる例。現場でキャリアをスタートさせた人が開発チームに回れば、それは相当な強みになるのは容易に頷けるところでしょう。ここにきて日本は、まさに人が資本になり経営の肝と化す、人的資本経営を地で突き進む構造ができあがりつつあるといえます。
人的資本経営に取り組むためのステップとポイント

では、実際に人的資本経営に取り組むためには何を意識し、どのようなステップを踏んで進めていけばよいのでしょうか。以下、必要な手順と大切なポイントを紹介します。
経営戦略と人材戦略の連動
人を資本と置くならば、経営戦略と人材戦略を連動させなければなりません。後者を策定するうえで大事なことは課題の結びつけです。たとえば、DXに力を入れたいものの自社ではノウハウが蓄積しておらず、サービスに必要な基盤も弱ければ、なかなか推進するのは難しいでしょう。と、この課題を人材領域にまで落とし込んでみた場合、必要なことがおのずと見えてきます。そう、デジタル人材の確保や育成です。人的資本経営では、そうやって、「できていない」「足りていない」部分に対して人を起点に解決を図っていきます。このアプローチは、基本かつ本質です。ゆえにまずは、経営戦略と人材戦略を紐づけるところから始めます。
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目指したい組織像の設定
課題だけでなく目指すべき理想の姿(組織像)もしっかり設定する必要があります。ポイントは、経営陣と人事担当者で戦略や方針の乖離が生まれないよう、共通認識を顕在化させることです。定量にせよ定性にせよ向かう先とゴールを明示したうえで、人材データと併せて追跡していくとよいでしょう。
施策の考案、実行
経営と人材の有機的な結びつきのもと、これまで浮き彫りになった課題と未来に向けた目標が決まれば、打ち手を考え実行するフェーズに入ります。従業員の個性を生かし企業価値をどのように高めていくか。もちろん、場合によってはそうすんなりとはいかないでしょう。また、投資家の目も気になるかもしれません。その際は基本に立ち返ることをおすすめします。人的資本経営の人的資本経営たらしめるものは何か、それはやはり“人”です。困ったときは全社員で乗り切れるよう(相談できるよう)、それは部署を横断してでも周りの協力を仰ぐことを意味します。普段から“人”を大事にしていれば、ここぞの局面でも“人”が頼りになるはずです。
検証、改善
人的資本経営がうまくいっているかどうかの検証も必要です。これは、人事評価体系や職場環境、切磋琢磨できる土壌か否か、自社の目指す姿あるいはフィロソフィーに対する理解度、浸透度……等々を従業員に対して調査することで判断できます。ギャップが大きければ当然、改善は不可欠です。
有期雇用に対しても投資すべき!
人的資本経営と聞くと正社員に限定したものだと捉えている方が時々いらっしゃいます。が、それは誤解です。有期雇用の方々は近年、明らかにモードチェンジがみられます。アルバイト・パートはあくまで自身が選択した働き方であり、所属する組織のなかで貢献したい気持ちは、つまるところほかの従業員やそれこそ正社員と変わらないほどといっても過言ではありません。この傾向はぜひ知っておいて損はないでしょう。救世主となる存在はもはや雇用形態を問いません。契約社員でもフリーランスでもしっかり投資することで、会社は強くなります。とりわけ人手不足に悩む中小企業にとっては、大いに役立てられる情報でありポイントです。
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人的資本経営の主な事例

人的資本経営は企業によって異なるものとはいえ、ある程度共通項が浮かび上がっているようにも感じられます。たとえば、「魅力のある職場づくり」「人を大切にする」「決してデジタル化だけに依存しない」などです。そうした視点とともに、いくつか主な企業事例を簡潔に紹介します。
ワークマン
ワークマンといえば代表的な経営手法「Excel経営」をご存知の方も多いのではないでしょうか。これは、たとえば製品の配置と売上の因果を従業員自身がExcelを使い分析、改善まで落とし込むといった、データ(Excel)に基づく取り組みを指します。何より社内全体に浸透させたことが画期的だと各所から注目を集めました。が、こうした現場の標準化に行き着く過程で実は企業が何に取り掛かっていたのかは、意外と知られていないように思います。それはずばり、従業員の会社へのロイヤリティ向上です。そして、そのためにも従業員の給料を上げたのだといいます。権限移譲や意思決定を各人に任せたことがモチベーションにつながったようにも捉えることはできますが、やはりその前段階で土台を作っていたことを踏まえると、まさしく人的資本経営が実を結んでいることがわかります。
トヨタ自動車
「物づくりは人づくり」
強固な哲学と製造業を営むがゆえの説得力。トヨタ自動車が掲げるこのコンセプトには人的資本経営の本質が如実にあらわれています。問題解決のフレームワークを整えたうえで、現場の人間を尊重し、ジェネレーションギャップがあろうとも年々多様化が進もうとも、一人ひとりの発信の場は与えられ、成長が期待できるロードマップもしっかり用意されているこの組織づくりは、さすがの大企業だなと唸るばかりです。結局は人づくり。どの企業の事例もつまるところ上記の言葉に集約されていると感じます。
ダイキン
ダイキンの企業カルチャーを象徴するのが「人を基軸に置く経営」です。企業の競争力の源泉はそこで働く人の力だと捉え、従業員一人ひとりの成長の総和が企業の発展の基盤になるという信念は、紛うことなく人的資本経営だといえます。
評価体系や実際の報酬、やりがいなど働く人の意欲、納得感を引き出すべく最善策を講じようとするのも、ダイキンが人の可能性を無限に信じているからこそ。そこに企業価値をとことん見出した結果、アート思考を取り入れた新規事業の創出にもつながっています。
スターバックス
スターバックスでは、現場の人員のほとんどがアルバイトです。彼・彼女たちが大役に抜擢されることも珍しくなく、むしろそれがブランド力の一翼を担っています。皆がモチベーション高く働いているというのも納得です。従業員全員を“パートナー”と呼ぶ文化も然り。何より媒体による広告宣伝に頼らず、店舗での体験をパートナー自身が発信していくやり方(いわばこれこそが広報)に、人的資本経営の真髄を感じます。
人的資本経営が未来に及ぼすもの
人的資本経営に取り組む企業が今後どんどん出てくれば、雇用の硬直化はもはや過去の産物として、一気に流動化が進むことになるでしょう。楽観的に捉えるならば、一人ひとりの主体性がより自由度を増した結果、いたるところでイノベーションが生まれることも考えられます。そうしたなか、デジタル理解は不可欠です。少なからず企業はそこへ投資していかなければ、他社の後塵を拝することになりかねません。が、それだけでなく人が持つ思考力にも十二分にベットしていく必要があります。人的資本経営で大切なことはむしろ後者です。世界の動向も含めてこの先、人の価値が一段と問われていくものと考えます。人材を確保し、どう育成していくか。引き続き、企業にとっては大きなミッションになりそうです。
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