出向制度を運用する場合、当然ながら給与や保険料の負担区分、各種手当の支給条件などの理解が必須です。本記事では、これらについてくわしく解説。ぜひ、参考にしてみてください。

出向者の給与はどこから出る?在籍、転籍別に保険料の取り扱いも含めて解説

  • 2025.08.23
  • 2025.08.23

出向制度を運用する場合、当然ながら給与や保険料の負担区分、各種手当の支給条件などの理解が必須です。本記事では、これらについてくわしく解説。ぜひ、参考にしてみてください。

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従業員の出向とは?

出向とは、自社の従業員を関連会社など他社に一定期間配属勤務させる制度です。派遣労働とも異なり、大きくは「在籍出向」と「転籍出向」に分けられます。

在籍出向者とは?

在籍出向者とは、雇用契約上は元の企業(出向元)に籍を置いたまま、他の企業(出向先)で勤務する社員を指します。出向先では業務指揮命令を受けつつ、給与や社会保険の加入先などは原則、出向元の管轄です。在籍出向の多くは、企業間での人材交流やスキル習得、人員調整などを目的に行われます。そのため、契約期間を設けて終了後は出向元に復帰するのが一般的です。

転籍出向者とは?

転籍出向者とは、出向先の従業員として働くことになる人を指します。在籍出向と異なり、出向先との間で新たに雇用契約が結ばれるわけです。企業間、そして本人の同意のうえ、人事異動の一環として行われます。グループ企業間での人材再配置、事業譲渡や組織再編に伴って実施されることもよくあるケースです。

派遣労働との違いは?

派遣労働は、派遣会社に雇用された労働者が派遣先企業で指揮命令を受けて働く形態です。出向もまた自社の従業員を外部へと渡すわけですが、そこには社内人事上の措置という名目があります。そもそも出向社員の多くは自社でも働いています。そこからの異動であり、対して派遣は端から派遣先で勤務する仕組みです。また、転籍出向になると雇用契約を結ぶ先も変わってきます。これらを加味すれば、両者は似て非なるものだと明確にわかるはずです。

出向者の給与は出向元と出向先のどちらが負担?

出向者の給与は、契約上の雇用関係がどちらに残るか、また労務提供先がどこかによって、支払いと最終的な費用負担の構造が変わる仕組みです。以下、前述した在籍出向者、転籍出向者それぞれに対する場合で説明します。

在籍出向者に対する給与

在籍出向は、雇用契約を出向元と継続したまま、労務を出向先で提供する形態です。給与の支払いは形式上、出向元が行われます。が、その原資は出向先からの出向料(派遣料のような性質)でまかなわれることがほとんどです。とはいえ、出向契約の内容によっては一部を出向元が負担する場合もあります。

転籍出向者に対する給与

転籍出向は、出向先へ雇用契約そのものを移す形態です。この場合、給与の支払い、負担ともに出向先が行います。出向元との雇用関係は終了するため、給与負担に関して両社間で分担する仕組みは基本的にありません。が、例外的に、転籍時の特別手当や移行期間の賃金補填を出向元が負担するケースは見られます。

在籍出向の形態別に見る給与負担のパターン

在籍出向の形態には、主に4つのタイプがあります。ざっと挙げると次のとおりです。

給与の支給もそれぞれ変わってきます。以下、それぞれ解説します。

要員調整型

景気や業務量の変化によって人員過剰が生じた際、余剰人員を他社やグループ企業に一時的に配置することがあります。これは、要因調整型の出向です。給与については、基本的に出向元のコスト負担を抑える傾向にありますが、結局は出向元と出向先がどう取り決めるかによります。

業務提携型

特定のプロジェクトや業務提携の一環として実施される出向が業務提携型です。成果を得る分、出向先が負担することがほとんどですが、出向元が人材育成の意図も兼ねている場合にはその限りではありません(出向元が一部を負担することもあります)。

実習型

従業員のスキル向上や資格取得、専門知識の習得を目的とした出向が実習型です。この場合、教育投資の一環と位置付けられるため、出向元が給与全額を負担するケースも多く見受けられます。ただし、長期化や出向先にもベネフィットがあるようなケースでは適宜、柔軟に分担するのも一つのやり方です。

人事交流型

グループ会社や取引先との関係強化を目的とした人事交流型の出向でも、結局は出向元、出向先どちらが負担するかは区々です。折半のパターンもあれば、一方が全額負担するケースも見られます。

出向元に比べて出向先の給与額が低い場合

出向先の給与水準が出向元より低いケースは珍しくありません。たとえば、出向元が大企業で賃金体系が高く、出向先が中小企業や地方拠点の場合など、同じ職務でも支給額に大きな差が出ることはしばしば見受けられます。これを埋めるため、出向元から支給されるのが較差補填金です。法人税基本通達(法基通9-2-47)により、出向元が出向先との給与条件の較差を補填する目的で支給した分(※直接支給または間接支給を含む)は、合理的な理由がある場合に限り、(出向元の)損金算入として認められます。具体例としては、出向先が経営不振で賞与を支給できないケースや、海外出向に伴う留守宅手当の補填などです。較差額の算出根拠や支給条件、支給ルートなどは、出向契約書や社内規程によって明確にし、合理性を担保したうえで文書化しておくとよいでしょう。なお、差額算定は基本給に加え諸手当や賞与相当額も対象です。税務・労務・社会保険への影響を踏まえて契約や規程に反映することが求められます。

※直接支給は出向元が出向者に差額を直接支払う。間接支給は出向元が出向先へ補填金を渡し、出向先が給与に上乗せする。

出向社員の保険料は出向元と出向先のどちらが負担?

出向社員の社会保険や労働保険の負担は、出向形態や給与の支払い主体によって異なります。以下、主な保険ごとに解説します。

健康保険・厚生年金保険

健康保険や厚生年金保険について、在籍出向の場合、給与を支払う事業所が負担します。仮に出向元、出向先両方から給与が支払われる場合も、負担するのはどちらか一方です。したがって、従業員は給与額や勤務実態を基に主たる事業所を決定し、そこから健康保険・厚生年金保険の適用を受けます(主たる事業所を決める際には、「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を日本年金機構に提出しなければなりません)。

参照:複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き

雇用保険

雇用保険は、原則として賃金の支払い額が多い事業所が保険料を負担します。なお、適用対象の給与は、社会保険や労災保険と異なり合算されません。

労災保険

労災保険は、実際に労務を提供している事業所にて適用されます。したがって、在籍出向であっても、従業員が普段、勤務している場所が出向先であれば、保険料も出向先が負担します。

給与以外の主な手当は出向元と出向先のどちらが負担?

残業代や賞与、退職金といった手当についてもまた、出向元と出向先、どちらが負担するかは確実に知っておきましょう。以下、それぞれのケースについて解説します。

残業代

残業代の支払いについては、出向元と出向先の間で契約を取り決める必要があります。労務提供に関するルール(労働時間・休憩・休日等)は出向先が定めることが多く、出向元が残業代を支払う場合は出向先の報告に基づく事実確認が必要です。また、残業代の計算方法やタイミング、割増率なども契約書にはきちんと明記しておくことが望ましいしょう。なお、転籍出向では、雇用契約が出向先に完全移行するため、残業代は基本、出向先が全額負担します。

ボーナス(賞与)

賞与の支給も契約内容によります。パフォーマンスの恩恵を賜る出向先が支払う場合もあれば、人事評価に基づき出向元が負担することも考えられるはずです。また、両方の評価に基づいて按分支給するケースもあります。この場合、評価期間や査定基準を明確にし、どちらの評価結果をどの割合で反映するかが肝要です。結局のところ、契約書が効力を発揮します。なお、転籍出向では、基本、出向先の負担です。適用される制度も出向先のそれになるため、従業員には誤解なきよう伝えましょう。

退職金

在籍出向では雇用契約が出向元に残るため、原則として退職金は出向元の制度に基づいて支給されます。ただし、出向先での勤務期間を勤続年数に通算するか、評価や加算をどう扱うかは契約で定めます。場合によっては出向先が独自に慰労金や特別手当を支給するケースもあるでしょう。他方、転籍出向では、出向元との雇用契約が終了した時点で出向元が退職金を支給することが一般的に考えられます(その後の勤続は、出向先の制度に基づくことが通例です)。

いずれにしても、契約書や就業規則において退職金算定の基準日や勤続年数の取り扱いを明確にしておくことが必要です。

参照:出向先法人が支出する退職金の負担金の取扱い

出向者の給与を適切に支払うために

給与と書かれた積み木

出向者の給与や手当、保険料の負担は、出向形態や契約内容によって異なります。にもかかわらず、負担区分や計算方法が曖昧なままだと、出向元・出向先双方の間でトラブルへと発展しかねません。したがって、あらかじめ契約書や社内規程で、給与・各種手当・保険料の支払いについてのルールを設けることが必要です。算定基準、支給方法も含めて明確に定めましょう。とにもかくにも双方が同じ認識を持つことが大事です。仮に出向を検討されているのであれば、制度や条件は出向者にも納得できる形で説明し、円滑そして公正な運用を図っていきましょう。


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【監修者の紹介】

アラタケ社会保険労務士事務所の代表を務める荒武慎一氏

アラタケ社会保険労務士事務所 

代表 荒武 慎一

同志社大学卒業後、富士ゼロックス株式会社を経て、平成27年アラタケ社会保険労務士事務所を開設。平成30年すばるコンサルティング株式会社取締役エグゼクティブコンサルタントに就任。助成金セミナーを各地で開催し、難解な助成金を分かりやすく解説することで高い評価を得ている。社会保険労務士、中小企業診断士。

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