深夜手当とは?

まずは、深夜手当の基本的な部分について説明します。取り上げるポイントは次の3つです。
- 深夜手当の定義
- 深夜手当が発生する時間帯
- 深夜手当と夜勤手当の違い
法律上ではどのように扱われているのか、そしていつ発生するのか、混同しやすい夜勤手当と何が異なるのか、それぞれわかりやすくお伝えします。
深夜手当の定義
深夜手当とは何か端的に述べるならば、いわゆる深夜帯に勤務した労働者へ支払う、通常よりも割増された額の賃金(制度)です。具体的に労働基準法第37条4項では次のように定義されています。
使用者が、午後十時から午前五時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後十一時から午前六時まで)の間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
労働基準法第37条4項
深夜手当は、すべての労働者に適用され、25%以上の割増賃金を支払うことが義務付けられています。また、各企業が定めた額は就業規則や労働条件通知書への記載も必要です。
深夜手当が発生する時間帯
深夜手当が発生する時間帯は、原則、夜の22時から翌朝5時までです。この時間帯で労働が発生するようなら、深夜手当を支払わなければなりません。
なお、同じく労働基準法で定められた割増賃金の類には、休日手当や残業手当があります。仮にこれらと重なった場合(休日の深夜に働いた場合など)、割増分は各手当の合計です。※計算方法については次章でよりくわしく解説します。
深夜手当と夜勤手当の違い
深夜手当と似た制度に「夜勤手当」があります。混同される方も時々みられますが、両者の違いは明確です。ずばり、法律上のものか否かで分けられます。先述のとおり、深夜手当は労働基準法によって定められている一方、夜勤手当は企業が独自に制定したいわば任意の手当です。したがって、夜勤手当については従業員に支払う義務はありません。
深夜手当を含むアルバイトへ支払う給料の計算方法

実際のところ、深夜手当はどのように算出されているのでしょうか。以下、計算式に加え、いくつかのシチュエーションとともに具体的な計算の仕方を紹介します。
※各ケース、最低限の割増率を制定したものとします(深夜手当25%、残業手当25%、休日手当35%)。
深夜手当のみ発生する場合
基本の計算式は次のとおりです。
時給×割増対象の時間×割増率 |
例を挙げます。
【例1】 時給1,000円のアルバイトが、22時から24時まで働いた場合 1,000円×2時間×1.25=2,500円 【例2】 時給1,000円のアルバイトが、18時から24時まで働いた場合 通常勤務時間帯の賃金を算出 1,000円×4時間(18時~22時)=4,000円 深夜手当の割増賃金の賃金を算出 1,000円×2時間(22時~24時)×1.25=2,500円 総賃金を算出 4,000円+2,500円=6,500円 |
残業手当が加わる場合
アルバイトの労働時間は、労働基準法によって1日8時間・週40時間と定められています。そのため、それ以上働いてもらうには、前提として「36(サブロク)協定」の締結が必要です。
▶関連記事:アルバイトの労働時間について、上限など労働基準法に則り解説
上記を踏まえて時間外労働が深夜労働時間に重なった場合、残業手当も加わります。 残業手当の割増分は25%以上です。
時間外労働の割増率(25%) +深夜労働の割増率(25%)=割増率50% |
例を挙げます。
【例3】 時給1,000円のアルバイトが、9時~18時(休憩1時間)の所定労働時間を超えて24時まで働いた場合 通常勤務時間帯の賃金を算出 1,000円×8時間(9時~18時※休憩1時間)=8,000円 22時までの残業手当の賃金を算出 1,000円×4時間(18時~22時)×1.25(残業手当)=5,000円 22時以降の残業手当と、深夜手当に当たる賃金を算出 1,000円×2時間(22時~24時)×1.5(残業手当+深夜手当)=3,000円 総賃金を算出 8,000円+5,000円+3,000円=16,000円 |
休日手当が加わる場合
労働基準法により、従業員には週1日もしくは4週で4日のいずれかを法定休日として与えなければなりません。
▶関連記事:法定休日とは?所定休日(法定外休日)との違いや法改正による変更点など解説
法定休日に労働した場合に発生する割増分、すなわち休日手当は35%以上です。そして残業手当同様、労働時間が深夜帯に及んだ場合は、追加の支払いが義務付けられています。
深夜労働の割増率(25%)+休日手当の割増率(35%)=割増率60% |
例を挙げます。
【例4】 時給1,000円のアルバイトが、法定休日の18時から24時に働いた場合 22時までの休日手当の賃金を算出 1,000円×4時間(18時~22時)×1.35(休日手当)=5,500円 22時以降の休日手当と、深夜手当時間帯の賃金を算出 1,000円×2時間(22時~24時)×1.6(休日手当+深夜手当)=3,200円 総賃金の賃金を算出 5,500円+3,200円=8,700円 |
日給や月給で管理する企業の場合
日給管理の企業の場合、深夜手当の計算にあたっては時間単価を出します。方法はいたって簡単。日給を労働時間で割るだけで構いません。その後は時給管理のケースと同様です。他方、アルバイトに対して月給(日給月給制)管理の企業はどうでしょう(珍しいとはいえアルバイトを月給で管理する企業も存在します)。この場合、やや複雑に思われるかもしれません。必要なのは月平均所定労働時間です。求める計算式は次のとおり。
(365-年間休日)×1日の所定労働時間÷12ヶ月 |
そして、時間単価を出します。
月額賃金(家族手当、通勤手当、住宅手当などは控除)÷月平均所定労働時間数 |
では、日給管理、月給管理、それぞれ例を挙げます。
【例5】 1日8,000円のアルバイトが、休憩時間の1時間を除いて15時から24時まで働いた場合 時間単価を算出 8,000円÷8時間(15時~24時※休憩1時間)=1,000円 通常勤務時間帯の賃金を算出 1,000円×6時間(15時~22時※休憩1時間)=6,000円 深夜手当を算出 1,000円×2時間(22時~24時)×1.25=2,500円 総賃金を算出 6,000円+2,500円=8,500円 【例6】 月給24万円(諸手当控除済み)、年休125日、所定労働時間6時間のアルバイトが、月に5日間だけ(シフトの関係で勤務時間をずらさなければならず)18時から24時まで働いた場合 月平均所定労働時間数を算出 (365-休日125日)×6時間÷12ヶ月=120時間 1時間あたりの賃金を算出 240,000円÷120時間=2,000円 深夜手当を算出 2,000円×0.25×2時間(22時~24時)×5日間=5,000円 沿う賃金を算出(月給に加える) 240,000円+5,000円=245,000円 |
▶関連記事:アルバイトに支払う給料の計算方法は?合わない場合の対処術も紹介
深夜労働させてはいけない対象

アルバイトへの深夜手当について学ぶなら、同時に深夜労働に対する理解も必要です。冒頭でお伝えしたとおり、そもそもこの時間帯に働かせてはいけない人たちがいます。仮に違反した場合、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金を科される可能性もあります。以下、深夜労働させてはいけない対象です。
18歳未満の年少者
18歳未満の年少者を深夜労働をさせることは労働基準法第61条で禁じられています。これは、健康と福祉の観点によるものです。
ただし、補足事項として次のようにも定められています。
交替制によって使用する満16歳以上の男性については、この限りでない。
つまり、二交代制や三交代制で働く満16歳以上の男性に深夜労働をさせても、法律違反にはなりません。ちなみに学業を本分とする高校生には該当しない法律です。また、高校生の場合、18歳以上になったとしてもいくつか注意点があります。一つが、学校側が許可しているか否かです。校則で深夜労働が禁止されているのであれば、もちろん働かせてはいけません。保護者の同意も同様です。雇用時にはしっかり保護者の承諾を取るようにしましょう。さらには都道府県ごとに定められている青少年保護育成条例にも目配りしましょう。場所によっては18歳以上であっても高校生の深夜外出が制限されています。
妊産婦
母子の健康上の理由により、本人から申請があったとしても妊産婦に深夜労働をさせることはできません。時間外労働、休日労働も同様です。これは、労働基準法第66条第3項で定められています。そもそも、労働基準法第65条で書かれているように、原則、産後は労働自体をさせてはいけません。
参照元:労働基準法における母性保護規定
アルバイトの深夜手当を極力減らしたいなら

アルバイトの深夜労働は割増賃金が必要なため、どうしても人件費は嵩んでしまいます。ゆえに企業側からするとできれば抑えたいところ。というわけで以下、深夜手当がなるべく発生しないよう工夫できるポイントを紹介します。
早朝勤務への切り替え
労働時間を朝(5時以降)にシフトさせることで、アルバイトの深夜労働を回避できる可能性はぐんと高まります。早朝勤務によって終業時刻を前に持ってこれたなら、多少は残業に及んだとしても暗くならないうちに従業員を家路に返すことができるはずです。そもそも、勤務体制を朝型にすることで生産性向上も期待できます。実際、伊藤忠商事では、働き方改革の一環として2013年に朝型勤務を導入。深夜労働を完全に禁止し、プライベートの充実や自己啓発時間の創出を図ったところ、育児あるいは介護などに追われていた従業員からも、働きやすくなったとの声が上がりだしたといいます。
業務効率化の推進
深夜手当が増えてきたときには、一度業務フローの見直しを図った方がよいかもしれません。また、従業員一人ひとりに対する意識(動機)付けにも改善の余地がありそうです。
たとえば、SCSKが実施した「スマートワーク・チャレンジ20」と銘打った制度は、業務効率化が実現できた最たる例だといえます。具体的には、残業時間の前年比20%削減や有給休暇の20日を完全取得した従業員に対してインセンティブを支給するようにしたところ、17時以降の会議禁止や他部署との連携強化などが自然発生的に行われ、結果、業績アップにもつながったようです。したがって、深夜労働を無くそうと試みる場合でも、こうした取り組みが有効に作用すると思われます。
アルバイト・パート採用に力を入れる
従業員が深夜労働に及ばなければならない状況に陥る原因の一つに、人員不足が挙げられます。特にコア事業以外の部分で手間が掛かる場面は多くの組織でみられます。ここについては、前項に引き続き、対策一つで効率化が図れるはずです。そしてそれはずばり、アルバイト・パート採用に力を入れることだと考えます。
そもそも深夜手当云々以前に、長時間労働が通常運転の職場環境であれば、従業員が離れていくのも時間の問題です。帰属意識は薄まり、遅かれ早かれ人は辞めていくでしょう。大量離職も大いにあり得ます。無論、深夜労働などもってのほかです。したがって、深夜手当の発生を防ぐというよりも深夜労働を無くす体制をつくることに舵を切った方が本質的な課題解決につながるでしょう。従業員の働きやすさこそ、目指すゴールです。そこにたどり着くためにも、工数が嵩みやすい業務はアルバイトやパートを雇い担当してもらうとよいでしょう。そうすることで、効率的に仕事が回るはずです。
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深夜手当はアルバイト雇用に必須の知識

アルバイトを雇う際、深夜手当に関する知識は必須です。とりわけ支払いが必要になる条件、ほかの手当と重複する場合の計算方法など曖昧な方は今一度ルールを確認しておきましょう。法律を遵守し企業の信頼を損なわないよう気を付けてください。
また、人件費が掛かることだけでなく社内のエンゲージメントを下げないためにも、深夜労働自体、無くせるよう努力が必要です。もちろん、抜本的な企画の実施や画期的な制度の導入なども有効ですが、急がば回れ、業務内容を整理し新たにアルバイト・パートを採用することこそもっとも現実的で課題を根本から解決してくれる施策かもしれません。いずれにしてもアルバイト雇用を考えるときには少なからず深夜手当の問題がついて回ります。上述のとおり必須の知識ゆえに、曖昧にせず理解に努めることが大事です。
【監修者の紹介】

アラタケ社会保険労務士事務所
代表 荒武 慎一
同志社大学卒業後、富士ゼロックス株式会社を経て、平成27年アラタケ社会保険労務士事務所を開設。平成30年すばるコンサルティング株式会社取締役エグゼクティブコンサルタントに就任。助成金セミナーを各地で開催し、難解な助成金を分かりやすく解説することで高い評価を得ている。社会保険労務士、中小企業診断士。