試用期間に関する基礎知識

アルバイトを採用するうえで試用期間を導入している企業は、いまや決して珍しくないことです。それもそのはず、雇用する側とアルバイトそれぞれのミスマッチ解消にも役立つため、もはや導入しない理由がないといっても過言ではありません。
とはいえ、正社員の試用期間とは異なるのかなど、気になるポイントもあるでしょう。そのあたり、確実に理解することができれば、より効率的な採用につながるはずです。
そもそも試用期間とは?
試用期間とは、長期雇用を見込んだうえで入社する従業員の能力・適正を見定めるための期間です。そこで問題がないと判断されれば、正式な採用にいたります。
ここで気を付けたいのは、採用を見送るケースです。試用期間であればいつでも解雇可能だと考える方も読者のなかにはいらっしゃるかもしれません。が、実際解雇することは試用期間といえども簡単にはできないのが現実です。試用期間での解雇は、勤務不良や健康不良、経歴詐称など、合理的な理由があり、社会通念上妥当と認められる場合に限られます。
他方、賃金に関しては企業側も柔軟に設定することができます。そう、本採用時と同じ額でなくてはならないといった決まりはありません。実際に試用期間中は、本採用に比べて低い給与額を提示している企業も少なからず存在します。だたし、都道府県ごとに設定された最低賃金を下回るのはNGです。
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トラブルを避けるためにも、募集要項や面接時に、はっきりと明示するようにしましょう。
アルバイトと正社員で試用期間は異なる?
アルバイトの試用期間は、概念として正社員のそれと変わりません。雇用形態の違いにかかわらず、試用期間とはあくまで採用した従業員の能力・適性を確認するための期間です。
また、社会保険についても、正社員の労働契約と同じものとして扱われます。そのため、アルバイトであっても試用期間のうちに加入が必須です。
試用期間と研修期間の違い
試用期間と研修期間は混同されがちですが、大きな違いはその「目的」にあります。ずばり、試用期間が応募者の適正を見極めることに対して、研修期間を設ける狙いは、正式採用後の新人への教育です。したがって勤務内容も、前者は割とすぐに通常業務に取り組んでもらうことも多いのですが、後者はその前段階に注力し、企業のことや業務に関する知識を座学を通じて身につけさせる時間が長い傾向にあります。もちろん、そのあと実践学習も取り入れますが、文字どおり研修要素が強い期間が研修期間です。
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アルバイトの試用期間に対する企業の動向

多くのアルバイトを抱える職場で大きな課題となっているのが「早期退職」です。アルバイトに限ったことではないにせよ、その原因の一つに「応募者が抱いているイメージと実際の職場環境のミスマッチ」があります。求人情報に掲載できる情報には限りがあるため、少なからずギャップが生まれてしまうのです。
「一緒に働く従業員の雰囲気」「自分に合った仕事かどうか」「シフトの融通が利くか」など重要なポイントは、求人情報だけですべてはかれるものでもありません。体験して初めてわかることは多く、アルバイト側からすると場合によってはそこでの違和感を大事にして勤め先を方向転換する必要も出てきます。雇用する側も、従業員の能力や働く姿勢などを適切に知るのに、やはり実務を通して見極めたいものです。
上記を踏まえて、アルバイトの戦力化を重視するきらいがより加速するなか、正社員同様、試験期間を設ける企業が増えてきているのは、容易にうなずけます。今後さらに浸透していくことでしょう。
アルバイトの試用期間で定めるべき延長条件や給与形態

アルバイトに対して試用期間を設ける際、いくつか決めておかなければならない項目があります。それは、延長条件を含めた試用期間の長さや給与形態、保険の内容です。それぞれ以下、説明します。
試用期間の長さは3ヶ月?それとも6ヶ月?
試用期間を導入するにあたっては、明確な期限を決める必要があります。逆にいうと、期限を設定しなければ試用期間は無効です。くれぐれも注意しましょう。
さて、試用期間の長さ自体は法律で決められているものではありません。そのため、これは求職者の印象を加味して決めるものといえます。一般的には3ヶ月程度でしょうか。正社員に対しての場合、6ヶ月で設定される企業もよく見受けられますが、アルバイトだとやや長いかもしれません。いずれにしても、働く側に不安を与えないことが大事です。
試用期間の延長について
次の要件を満たしている場合、試用期間の延長が可能です。
- 試用期間の延長について、あらかじめ就業規則などに記載している
- 本人の合意を得ている
- 延長すべき合理的な理由がある
試用期間を延長する場合は、必ず応募者に伝える必要があります。書面だけでなく、本人に直接伝えることでトラブルは回避できるでしょう。
試用期間中に支払う給料
先述しましたが、試用期間中の給与は、必ずしも本採用時と同じにする必要はありません。当然、アルバイトも該当します。いうまでもなく、この場合、応募者には条件を通知したうえで、合意を得ておきましょう。ここを疎かにし雇用契約を結んでしまうと、企業側の責任が問われます。 加えて、最低賃金や残業時の割増賃金に関しても通常の労働基準ルールに則り支払いましょう。守らなければそれは違法です。
試用期間中の保険
アルバイト、そして試用期間であっても、各種社会保険への加入は必須です。試用期間は一般的に長期雇用を前提として設けられているため、待遇は本採用時のアルバイトと変わることなく扱われます。
加えて知っておくべきこととして、社会保険への主な加入条件は「1週間あたりの所定労働時間が20時間以上であること」「賃金月額が88,000円以上であること」「学生でないこと」などです。
大きなトラブルを避けるためにも、これらは確実に把握しておきましょう。
アルバイトに試用期間を設けるメリット

先に“導入しない理由はもはやない”と述べましたが、アルバイトに試用期間を設けることは、企業側、そして応募者にとってもメリットがあります。
大きくはミスマッチの防止と本採用に向けた課題調整の余地です。以下、それぞれ説明します。
ミスマッチを防止できる
試用期間を設けるにあたって何よりも意義のあるメリットが、ミスマッチの防止です。試用期間で、お互いが業務内容やそれらをこなす能力に対して明確になると、その後のアクションも定まります。適性がないまま本採用に進めてしまっては、両者にとって不幸です。努力で補えないレベルで環境との相性がよくないケースは存在します。働く側も雇う側もその部分をしっかりと見極める機関として、やはり試用期間は欠かせないといえるでしょう。
本採用までに課題を洗い出せる
コミュニケーションスキル含めて個々のポテンシャルに関しては、ある程度、経歴書や採用面接の段階でわかります。また、性格に関してもSPIなどで適性を測ることは可能です。しかし、たとえスキルは十分でも、データ上の性格に問題はなくとも、実際に職場で働いていくなかで思わぬ課題がみつかることは多々あります。たとえば、仕事の進め方も含めて社内組織の情報は、そうすぐに馴染んだり理解できたりするのも難しいはずです。と、そのように課題がはっきりしていれば、試用期間で重点的に教育する(学ぶ)ことができます。もちろん、根本的な改善が必要であればミスマッチの可能性も高いわけですが、努力で補える範囲だと判断できる場合、本採用時の活躍のためにも、苦手分野の払しょくに時間を割けることは実に貴重だといえるでしょう。そもそも不安要素をみつけること自体、有意義な時間だと考えます。
アルバイトに試用期間を設ける際の注意点

試用期間の導入はプラスに働く反面、注意点を疎かにしがちな傾向にあります。
とりわけ「試用期間中はいつでも解雇できる」「給与はいくら低く設定してもかまわない」といった間違った認識からトラブルに発展してしまうケースは、愚の骨頂です。以下、気を付けるべきポイントをまとめました。
不当に給与を低くしない
試用期間中の給与に関して、本採用時より低く設定すること自体、問題はなく、繰り返しお伝えするように、珍しいことでもありません。しかし、これが行き過ぎると問題と化します。既述のとおり、各都道府県で定められている最低賃金を下回ることや時間外労働や深夜労働・休日労働に対して手当を支給しない体制は、試用期間においても違法行為です。
試用期間だからといって解雇できるわけではない
これもすでにお伝えしていますが、念押しであらためて取り上げます。試用期間中であっても正当な理由なくアルバイトを解雇することはできません。勤務態度や人間性に問題があり、業務に著しく影響を与える場合などは例外ですが、原則、自由に解雇できるものではないことは認識しておきましょう。
試用期間の解雇理由
試用期間中は「解約権留保付労働契約」の状態です。そのため通常の労働契約よりは「企業側の解約権が強い」ことも一方では確かだといえます。したがって理由次第では、解雇も可能です。
正当と認められる理由をいくつか挙げます。
- 遅刻や無断欠勤を繰り返す
- 経歴を詐称していた
- 勤務態度が著しく悪く、指導後も改善しない
- 会社に大きな損害を与えた
ただし、上記に該当しても、すぐに解雇できるわけではありません。企業側が一定の努力をみせたうえで、解雇可能か否かの判断を仰ぐことになります。
解雇手続きのルール
試用期間中の解雇は入社から14日以内か、それ以降かで手続きが変わるため注意が必要です。それぞれ、以下のルールが適用されます。
入社日から14日以内に解雇する場合
その従業員が入社してから14日以内であれば、解雇予告は不要です。本人に面談で通知し、解雇できます。解雇手当を支払う必要もありません。
入社日から14日以降に解雇する場合
入社日から14日以降に解雇を行う場合は、解雇予告が必要です。また、即日解雇の場合は30日分の解雇予告手当を支払わなければなりません。
試用期間中でも有給は発生する
有給休暇は、法律上、雇入日から起算して6ヶ月以上の継続勤務があり、かつ労働対象日全体の8割以上出勤した方に対して付与されます。そしてこの“雇入日”は、本採用日ではなく、試用期間開始日です。
アルバイトの試用期間に対する理解を深めよう

アルバイトに対して試用期間を設けることは、いまや普通です。かといってただなんとはなしに導入してしまうと、トラブルを招く恐れもあります。たとえば、試用期間であっても簡単に解雇できるわけではない点。不当に賃金を下げてはいけない点。これらは再三述べていますが、それだけ誤解されやすいことだともいえます。
つまるところ、試用期間のメリットはもちろん、注意点まで正しく理解することが前提であり、大切です。知識を得たならば、採用活動、人事業務にうまく活かしていきましょう。
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