目次
休業手当と休業補償、それぞれの基本概要

「休業手当」と「休業補償」にはどのような違いがあるのでしょうか?
以下に、それぞれの基本概要を解説します。
休業手当とは?
「休業手当」とは、会社都合によって休業する従業員に対して支払われる手当のことです。従業員が働ける状態であるにも関わらず、経営不振や運転資金不足などで操業停止となった場合などがこれに当たります。
「休業手当」は労働基準法第26条に定められた制度のため、企業側が手当を支払わなかった場合は罰金が科せられます。また「休業手当」は給与所得に該当するため、所得税の課税対象です。
一口に休業といっても様々なケースがあります。
以下に、代表的な休業に当たるケースを挙げましょう。
労働災害に該当するケース
業務中や通勤途中に事故や病気になり、療養のため業務を行えない場合の休業です。
自己都合に該当するケース
業務中や通勤途中以外で事故や病気になった場合の療養、出産による育児休業や産前産後の休暇、社会福祉施設での奉仕活動やボランティア活動、家族の介護などが自己都合による休業に当たります。
会社都合に該当するケース
会社都合の休業は、経営不振や運転資金不足、自宅待機などによる操業停止、設備の不備、作業に必要な従業員不足などによる休業などが該当します。
天災事変に該当するケース
天災事変とは、自然界に起こるさまざまな災いのことです。台風、地震、火事、洪水、暴風などの影響により、働けない状況に陥ることも考えられますがこの場合、会社側の指示による休業であっても「会社都合休業」とはならず、休業手当が支給されないケースもあるため注意が必要です。
たとえば、地震などで公共交通機関が使用できない場合は不可抗力とみなされ、会社側の責任はなしと判断されることがあります。
休業補償とは?
「休業補償」は、労災に関する制度で、業務中に生じた怪我や病気によって仕事ができなくなり、給与を受け取れない状況になった場合に給付されます。休業開始から4日目以降に会社が加入している労災保険から、平均賃金の80%が支給されるものです。
会社側が負担するということで、「休業手当」と勘違いする方も多いのですが、こちらは補償であって賃金ではないので課税対象にはなりません。
休業手当の計算方法

ここでは、休業手当が給付される対象者と、その計算方法について解説します。
休業手当の対象者は?
休業手当は、正社員や契約社員、アルバイト、パートなど、雇用形態による制限はありません。雇用主である企業の都合で休ませたすべての従業員が対象となります。
また、内定者の場合は、労働契約が成立していれば、企業側は休業手当を支払わなければなりません。派遣社員の場合も、労働基準法第26条が適用されるため、休業手当の支払義務が生じます。
ただし、業務委託契約を結んでいる場合、個人事業主であれば休業手当の対象外です(例外的に対象のケースもあります)。
休業手当を算出する手順
企業側の都合により、労働者が働けない状況になった場合には、平均賃金の60%以上の休業手当を支払う義務があります。
平均賃金は、事由の発生した日(休業開始日)以前の3カ月間に、その従業員に対して支払われた賃金の総額を、3ヶ月間の暦日数で割った金額です。
「事由の発生した日以前の3ヶ月間」というのは、休業直前の賃金締切日からさかのぼった3カ月間のことで、休業開始が賃金締切日と重なった場合は、その前の賃金締切日からさかのぼります。
賃金総額には、精勤・皆勤手当や通勤手当、時間外手当、年次有給休暇分の賃金などの各種手当も含まれます。また、未払分の賃金も対象です。
ただし、以下の項目については賃金総額から控除されます。
- 結婚手当、傷病手当、退職金、加療見舞金などの臨時で支払われた賃金
- 3ヶ月以上の期間ごとに支払われる賃金(3ヶ月ごとに支払われる賞与の場合は算入されます)
- 労働協約で定められていない現物給与
休業手当の計算例

では、休業手当の支給額を、具体例をもとに計算してみましょう。
まずは月給制で働く従業員のケースです。
月給の場合の計算
<月給制> 月給:250,000円 通勤手当:10,000円/月 賃金締切日:毎月末締め 勤務予定日:7月1日~7月31日のうち20日間 休業日数:5日間
【直前3カ月間の賃金総額】 直前3カ月間 暦日数 賃金 4/1~4/30 30日 260,000円 5/1~5/31 31日 260,000円 6/1~6/30 30日 260,000円 合計 91日 780,000円 |
- 直前3カ月間の賃金総額=780,000円
- 暦日数=91日
【1日の平均賃金】 直前3カ月間の賃金総額÷3カ月間の暦日数 ○780,000÷91=8,571,42… ○平均賃金は8,571円42銭(銭未満は切り捨て) |
【休業手当】 1日の平均賃金×0.6×休業日数 ○8,571.42×0.6×5=25,714.26 ○休業手当は25,714円(円未満は四捨五入) |
日給/時給の場合の計算
アルバイトやパートなど、日給制や時給制で働く従業員の場合は、計算方法が上記と異なります。これはひと月の労働日数が月給制で働く従業員と比べて少ないケースが多く、通常の計算方法を用いると不利益(平均賃金が低額になる)が生じてしまう可能性があるためです。したがって、通常の計算方法とは別に「最低補償額」を出し、額が高い方を平均賃金として適用します。
■通常の計算式の平均賃金
直前3カ月間の賃金総額÷3カ月間の暦日数
■最低補償額
直前3カ月間の賃金総額÷直前3カ月間の労働日数×0.6
では、日給制のアルバイトの休業手当を計算してみましょう。
<日給制> 日給:8,000円 通勤手当:5,500円/日 賃金締切日:毎月末締め 勤務予定日:7月1日~7月31日のうち12日間 休業日数:2日間
【直前3カ月間の賃金総額】 直前3カ月間 暦日数 労働日数 賃金 4/1~4/30 30日 15日 120,500円 5/1~5/31 31日 12日 96,500円 6/1~6/30 30日 13日 104,500円 合計 91日 40日 321,500円 |
- 直前3カ月間の賃金総額=321,500円
- 暦日数=91日
- 労働日数=40日
【1日の平均賃金(通常の計算方法)】 直前3カ月間の賃金総額÷3カ月間の暦日数 ○321,500÷91=3,532,96… ○平均賃金は3,532円96銭 |
【最低補償額】 321,500÷40×0.6=4,822,5 ○最低補償額は4,822円50銭 |
この場合、通常計算の平均賃金と最低補償額では最低補償額の方が高いので、4,822円50銭を用いて休業手当を算出します。
【休業手当】 最低補償額×0.6×休業日数 ○4,822,5×0.6×2=5,787 ○休業手当は5,787円 |
休業補償の計算方法

続いて、休業補償の対象者と計算方法について解説します。
休業補償の対象者は?
休業補償は、従業員が業務中や通勤途中に怪我をしたり、病気になったりして、り業務が行えなくなった場合に支払われる補償です。正社員や契約社員、アルバイト、パートなど、雇用形態に関係なく、全ての従業員が支給対象に当たります。
「労働することができないため会社から賃金を支給されていない」ことも支給条件です。
怪我や病気の程度が軽く、通院だけで済む状態の場合は支給の対象から外れます。
派遣社員の場合、雇用関係にある企業には休業補償の支払義務が生じます。
休業補償を支払うのは労働基準監督署ですので、賃金扱いにはならないため課税対象にはなりません。
休業補償を算出する手順
休業補償給付は「給付基礎日額の60% × 休業日数」で算出します。また、休業補償給付とは別に「休業特別支給金」が支給されますが、こちらは「給付基礎日額の20% × 休業日数」で算出します。つまり、休業1日当たり給付基礎日額の80%(休業補償給付の60%+休業特別支給金の20%)が支給されるということです。
給付基礎日額とは、労働基準法の平均賃金に相当する額のことを指します。平均賃金は、事由の発生した日以前の3ヶ月間に、その従業員に対して支払われた賃金の総額をその期間の暦日数で割った、一日当たりの金額です。
休業補償の計算例
では、休業補償の算出方法について、具体例を用いて解説します。まずは月給制で働く従業員のケースです。
月給の場合の計算
<月給制> 月給:250,000円 通勤手当:10,000円/月 賃金締切日:毎月末締め 勤務予定日:7月1日~7月31日のうち20日間 休業日数:5日間
【直前3カ月間の賃金総額】 直前3カ月間 暦日数 賃金 4/1~4/30 30日 260,000円 5/1~5/31 31日 260,000円 6/1~6/30 30日 260,000円 合計 91日 780,000円 |
【1日の平均賃金(給付基礎日額)】 直前3カ月間の賃金総額÷3カ月間の暦日数 ○780,000÷91=8,571,42… ○平均賃金は8,571円(1円未満の端数は切り上げ) |
【休業補償給付額】 8,571円×60%=5,142円 |
【休業特別支援金】 8,571円×20%=1,741円 |
【休業補償日額】 休業補償給付+休業特別支給金 ○5,142円+1,741円=6,883円 |
【休業補償】 休業補償日額×休業日数 6,883×5=34,415 休業補償は34,415円 |
日給/時給の場合の計算
日給制や時給制で働く従業員の場合は、計算方法が月給制の場合とは異なります。休業手当と同じく、通常の計算方法で算出した平均賃金と最低補償額の2つを出し、額が高い方を平均賃金として用いて計算します。
■通常の計算式の平均賃金
直前3カ月間の賃金総額÷3カ月間の暦日数
■最低補償額
直前3カ月間の賃金総額÷直前3カ月間の労働日数×0.6
<日給制> 日給:8,000円 通勤手当:5,500円/日 賃金締切日:毎月末締め 勤務予定日:7月1日~7月31日のうち12日間 休業日数:2日間
【直前3カ月間の賃金総額】 直前3カ月間 暦日数 労働日数 賃金 4/1~4/30 30日 15日 120,500円 5/1~5/31 31日 12日 96,500円 6/1~6/30 30日 13日 104,500円 合計 91日 40日 321,500円 |
【1日の平均賃金(通常の計算方法)】 直前3カ月間の賃金総額÷3カ月間の暦日数 ○321,500÷91=3,532,96… ○平均賃金は3,532円 |
【最低補償額】 321,500÷40×0.6=4,822,5… ○最低補償額は4,822円 |
この場合、最低補償額の方が高いので、4,822円を用いて休業補償を算出します。
【休業補償給付額】 4,822円×60%=2,893円 |
【休業特別支援金】 4,822円×20%=964円 |
【休業補償日額】 休業補償給付+休業特別支給金 ○2,893円+964円=3,857円 |
【休業補償】 休業補償日額×休業日数 ○3,857×2=7,714 ○休業補償は7,714円 |
休業手当、休業補償に関する企業側の注意点

休業手当、休業補償を従業員にきちんと支払うためには、それぞれの違いを理解し、しっかりと対応することが重要です。
以下に、休業手当と休業補償に関して企業側が注意すべきポイントを解説します。
それぞれの特徴を把握する
従業員が会社都合あるいは怪我や病気で仕事を休まざるを得なくなった場合、企業は休業分の賃金を支払うことが定められています。
しかし、そもそも休業とはどのようなもので、どんな種類があるのか、そして休業手当と休業補償との違いは何かなど、しっかりと理解しておかなければ、労災トラブルに発展してしまう可能性もあります。
ここまでお伝えしてきたような休業手当と休業補償についての正しい情報を知っておくことで、労災トラブルなどのリスクも回避できるでしょう。
(h3)各ケースにしっかりと対応
休業は雇用形態によって賃金の計算方法や金額が異なるため、各ケースに合った対応しなければなりません。それぞれどのような手続きをすればいいか、理解は必須です。
雇用調整助成金も検討
雇用調整助成金とは、事業主が経済的な理由により事業活動の縮小を余儀なくされた場合に、労働者の失業防止のために事業主に対して給付する助成金制度のひとつです。
なお、新型コロナウイルスの影響を受けている企業は、特例措置が設けられ、条件を満たせば雇用調整助成金を活用できます(令和4年11月30日まで)。
休業手当と休業補償の違いをしっかり理解しよう

従業員がやむを得ない理由で働けなくなった場合、彼・彼女らの不利益を最大限回避するために努力するのが雇用者である企業の責任です。従業員との良好な関係を維持するには、企業側が休業手当と休業補償の違いを理解し、しっかりと対応することが求められます。そうしたなか、採用業務の効率化を図りたい人事担当者の方には「人事労務コボット」がおすすめです。こちらのサービスを利用することで、入社手続き・雇用契約のペーパーレスが実現できます。その結果、作業時間の大幅な削減が期待できるでしょう。
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