トリマーになるには?|バイトル
「トリマー」なるには?なったら?
たくさんのユーザーが注目するオシゴトに迫る当連載。今回はペット好きの間で人気のある職種、トリマーをスクープ! トリマーってヒトコトでいうと“犬の美容師さん”だと思いますが、やったことがない人にとっては、未知の部分も多いみたい。美容師になるには国家資格が要るけど、じゃあトリマーさんって何か要るんだっけ? どんな人に向いていて、どんな仕事を任されて、どんなやりがいを得られるの?……それらこれらを解明すべく、実際の職場に突撃してきました!
今回おじゃましたのは、トリミングサロン『DOGGYBERRY (ドギーベリー)』本店(神奈川県相模原市)。
開業10年目の人気店。現在はこちらの本店、稲城店を合わせて7人のトリマーさんが在籍中とのこと。今回は稲城店店長の鈴木明人さん(写真左、以下鈴木)、オーナーの佐藤久美子さん(写真中、以下佐藤)、本店店長の伊美一枝さん(写真右、以下伊美)に、お話をお伺いしました。
――ズバリ、トリマーさんって資格は必要なんでしょうか?
佐藤「資格がなくても働くことはできますよ。でも、民間の資格がたくさんあり、取得しておいたほうがトリマーで働く際に有利だと思います」
なるほど。マストではないけれど、たくさんあるのか。
――たとえばどういった資格がありますか?
佐藤「有名なのは、ジャパンケネルクラブ(JKC)ですね。技術と経験のレベルによってC級、B級、A級、教士、師範という5種類の公認トリマー資格が発行されます」
ここで補足を。JKCのトリマー資格を取得するにはJKC公認のトリマー養成機関に入学するのが近道で、1年間の課程を修了した後、卒業試験に合格すればC級取得。その後、B級取得にはさらに1年間、A級取得にはさらに2年間在学し、それぞれ所定の課程を修了する必要があるんだとか。
佐藤「B級所持者は珍しくありませんが、A級を持っていると一目置かれます」
B級取るのに最短2年、A級は最短で4年! なかなか険しい道ですなぁ。
――ほかには、どんな資格がありますか?
佐藤「ペット関連の専門学校などが独自に発行している資格があります。学校によって取得にかかる期間も異なります」
鈴木「僕はその類の資格を取ってトリマーになりました。ちなみに僕が通ったのは一般的な2年制でしたけど、1年制や半年制で資格を取れる短期科とか、働きながら取れる夜間科もあります」
伊美「私は3ヵ月で卒業できる『速成科コース』で資格を取りましたが、その3ヵ月だけでは勉強が足りなかったです。でも大事なのはそこからの自分の努力かな、って思います。3カ月の速成科を出たからって、2年制の卒業生に劣っているとは思いませんね」
実際に店長まで上り詰めた伊美さんがそう言うのだから、説得力があります。「資格はないよりあったほうがいい」けども「大事なのは本人のやる気&努力」ということ。ちなみにトリマーとしての就職はトリミングサロン(ペットサロン)のほかにもペットショップや動物病院、ペットホテルなどさまざま。とりわけトリミングサロンはその名の通りトリミングの技術力が大いに問われるのだとか。
鈴木さんは専門学校を卒業後、正社員として新卒入社。伊美さんは動物病院で4年半ほどトリマーとして勤務した後、縁あって今の職場で正社員として働くことになったそうです。では、若くして店長として活躍中のお二人は、それぞれどんな思いでこの業界に飛び込んだのでしょうか。
――ズバリ、トリマーさんになろうと思った理由は?
鈴木「動物がとにかく好きで、高校を出たら動物関係と決めていました。動物園の飼育員とか、動物病院の先生とか、ほかにも選択肢はありましたが、自分の技術でワンちゃんをきれいにしてあげられて、お客様から感謝される点に魅力を感じて、トリマーに決めました」
伊美「私は実家で犬を飼っていて、犬好きというのもありますが、実は最初からトリマーになりたかったワケじゃないんです。高校卒業後の進路を決めるとき、親から『手に職を付けろ。とりあえず学校に行け』と言われまして、学校に通う期間は短いほうがいい! って発想で専門学校を探していたら"トリマーの資格は3ヵ月で取れる"ことがわかって、『コレだ』と(笑)」
伊美さん、すごい正直! みなさんいろいろな理由でトリマーを志すようですね。
佐藤「ウチの場合はアルバイトやパートも随時募集中ですが、トリマー歴2年以上の経験者を優遇します。新人トリマーは正社員のみの募集で、専門学校を卒業した人に限らせてもらっています」
――アルバイト・パート採用は、どういう人が応募されるんですか?
佐藤「主婦の方がほとんどですね。独身時代にトリマーをやっていて、結婚を機にいったん離職したけど、一段落したので再びトリマーのお仕事をやりたい、というパターンが多いです」
――では、「トリマーに向いている人」ってどんな人?
鈴木「やっぱり犬を飼ったことがある人は適応が早いかな。僕は専門学校に入ると同時に実家でワンちゃんを飼い始めました」
佐藤「犬を飼ったことがない人でもトリマーになれますが、そういう人はたいてい2年制の専門学校を卒業してから応募してきます。『飼ったこともなくて専門学校も出ていない』という人は雇いづらいのが本音です」
飼うのはマストじゃないけれど、餌やりや排便などの世話のコツや、言うことを聞かない犬への耐性は、実際に飼わないとなかなか身に付かないんだとか。ということは犬の管理も学ばせてくれる専門学校を選ぶのはいいかも。
――専門学校に通いながらトリミングルームで働くと、覚えが早そうですね?
佐藤「いや、トリマーの専門学校に通いながら、トリミングルームのバイトをする人って、実は極めて少ないんですよ」
――うん? それはまたどうして?
佐藤「学校とお店では指導方法が異なるケースが多いので、卒業前に偏った癖がつかないよう『在学中はペット関係のバイト禁止』な専門学校が多いからです」
そうなんだ!たしかに同時進行で、別々の人からまったく違う指導をされたら、頭も体も混乱しちゃうもんなぁ。「トリミングの技術は学校で学ぶ」「接客の技術は別業態のバイトで学ぶ」てな感じで使い分ける学生さんが多いんだって。
――じゃあ、どんなバイト経験や前職経験なら、トリマーさんの仕事に活かせそうですか?
鈴木「飲食、販売などでの接客経験は、この仕事にも大いに役立つと思います。会話からお客様のニーズを汲み取るのが上手く、会話でお客様を喜ばせることができる人は、人気トリマーになる素質が十分ですね」
佐藤「同じ動物を扱う仕事なので、ペットショップの販売スタッフをやったことがある人も、その経験を大いに活かせると思う。あとは同じハサミを使う仕事なので、美容師だった子もトリマーの世界に入りやすいでしょうね」
――性格的にはどんな人がトリマーさんに向いていますか?
佐藤「我慢強い人が伸びると思います」
鈴木「ワンちゃんをケアする仕事であると同時に、人に感謝されることにやりがいを感じる仕事でもあるので、『人のために何かをやりたい』『人を喜ばせるのが好き』という人に向いているかも」
ほほぅ。どうすればなれるのか、どんな人が向いているのかが、なんとなくわかってきました。では、そろそろ仕事内容の話を。
――具体的にどんなお仕事をするのでしょう?
鈴木「ハサミを使ってワンちゃんの毛をデザインカットするトリミング作業のほか、シャンプー、ドライヤー、耳掃除、爪切り、ブラッシングなどのお手入れ全般も行います。そしてワンちゃんの健康状態も同時にチェック。皮膚の状態、歯の状態、耳の中の状態などを一通り確認し、飼い主さんに教えてあげるのも大切な任務です」
――一日のスケジュールでいうと?
伊美「9時過ぎに出社して開店準備。9時半から朝礼して、今日来るワンちゃんのカルテをチェック。開店後は次から次へとワンちゃんをきれいにしていきます。犬1匹につき、シャンプーだけなら約1時間、トリミングも入れたら計2時間ほど。トリマー1人あたり1日3~4匹のワンちゃんを担当する感じですかね」
開店したらずっとお忙しいようです。タフな仕事だなぁ……。
鈴木「あとは電話予約の受付や、オリジナルグッズの販売も僕らの仕事ですね」
オリジナルグッズ! これがなかなかイケていて評判なんだって。こうした店独自のサービスでお客さんを喜ばせるのは当たり前。最近じゃ犬の送迎や散歩を、飼い主さんに代わって行うサロンも増えているんだとか。
――トリマーをしていて大変だと思うことは?
鈴木「立ち仕事だし、けっこう体力を使いますね」
伊美「ハサミを使う仕事だから、犬の保定(動かないように抱くこと)はトリマーにとって欠かせない技術です」
佐藤「保定は”ここを押さえると動かない”っていうコツが肝心です。慣れるまではワンちゃんが暴れて大変」
――えっ! ということは慣れないうちは、犬に噛まれることも……?
鈴木「入社当時、トリミングやシャンプーが苦手なワンちゃんに、噛まれたこともありましたね(笑)」
佐藤「犬って、噛まれるのを怖がっている人にはどんどん噛んでくるんですよ。だから恐れず『私は犬よりも強いオーラ』を犬に感じさせるようになると、犬はおとなしくなるんです」
犬は上下社会を重んじる生き物。普段はおとなしい犬が新人トリマーに噛み付いたり、逆に普段はよく暴れる犬がベテラントリマーの前では従順になったりは、よくあることなんだって。
犬との関係も大事だけど、「飼い主さんとの信頼関係を築くことはもっと大切」というのがトリマーさんの共通認識!
佐藤「トリマーという仕事は、飼い主さん相手のサービス業。飼い主さんを満足させて初めて、リピーター獲得につながります。どんなに犬が好きでも、人とコミュニケーションを取るのが嫌いな人は、長く続けるのは難しいかも」
飼い主さんとの信頼関係を築くことが大切。誰かが愛するペットだものね。
伊美「お客様にワンちゃんの健康状態を伝えることが、実は一番大切かつ大変な業務だと思います。多くの飼い主さんは、犬の細かいところまで見ていません。私たちがしっかりチェックして、お客様にわかりやすく報告やアドバイスをしてあげる必要があります」
鈴木「『お尻の長さはこのぐらい、胴体はこう、頭はこう、足はこう』と細かい注文をされるお客様もいらっしゃいますから、まずは飼い主さんと綿密に打ち合わせる必要もあります」
――となると、高い技術力も求められますね。
鈴木「はい。だからこそ、お客様から『可愛く仕上げてくれてありがとう』って言わるとすごくうれしいんです!」
――そのほかトリマーさんって、どんなやりがいがありますか?
鈴木「とにかくいろんな種類の犬と触れ合えること。犬好きにとって、これは大きな喜びです」
伊美「いろんなワンちゃんがウチに来ることで健康でいてくれる。ワンちゃんの生涯のケアに携われる点も、やりがいがあっていいな、と思います」
佐藤「3カ月、半年、1年……と元気に成長していく様子を見守れるのも醍醐味ですね」
ところで、店内にスタッフ全員の写真入り自己紹介が貼ってあるのですが、男性はなんと、鈴木さん、ひとりだけ!
――女性が多い職場ですね。
佐藤「ウチの店に限らず、業界全体が、圧倒的に女性のほうが多いんです。男1:女9ぐらい?」
鈴木「男は1すらいないかも。僕が通った専門学校は、生徒が150人以上いて、男性は4人ですから」
――なぜ、そこまで男性が少ないんでしょうかね?
佐藤「賃金の問題でしょうね。トリマーになっても、独立開業しない限りは、家族を養うのは難しいのが現状です」
うむぅ、なるほど。そういう事情があったんですね。
佐藤「女性も30歳を過ぎて続けている人はすごく少ないです。だいたい20代半ばぐらいで辞めていくか、違う業界に転職しちゃいますね」
伊美「結婚すると、たいていの女性トリマーは辞めちゃうんです。給料の割に仕事がハードですから、家庭との両立が難しい」
――ということは、独身の方が多いんですか?
伊美「私は結婚していますし、2歳の子供もいます。保育園に預けてから出勤して、迎えに行っての週5勤務です」
――ご家庭とお仕事の両立が大変そう……。
伊美「すっごい大変です! でも、せっかく資格を取ったのに途中で辞めちゃうのって悲しいですし、結婚して出産した女性でも生涯トリマーとして活躍できる時代になってほしいから、私が両立させて、その成功例を示したいんですよ」
トリマーの社会的地位向上を目指す伊美さん、とってもステキ!
ここで、業界の現状と将来性について補足を。ペットブームは2003年をピークに犬の販売数も減少傾向ですが、トリマー業界の伸び率はここ数年横ばい状態。一度飼った犬は10~15年は生きるため「今後急速に市場が縮小するとは考えにくい」(佐藤)とのことです。トリミングサロンに関して言えば、都市部では現在、飽和状態といわれるほど数多くあるため、「これからは他店との差別化をどう図っていくかが大事」(同)だそう。
――他店と差別化を図るポイントは?
鈴木「技術を身につけるのが一番です。そのためには他のサロンや、ショッピンセンターのペットショップなどの研究も欠かせません」
伊美「他店の偵察はもちろん、同業者のホームページやブログもチェックします。あとは多業種のサービス業のお店に行って、売り出し方やトークも研究しています」
やっぱり、常日頃から研究を重ねているからこそ、今の活躍があるんだろうな。
――そんな伊美さんの将来の目標を教えてください。
伊美「家庭と仕事を両立させて、生涯続けていくことが第一の目標。そして長く働ける後輩トリマーの数を増やしたいですね」
――鈴木さんの目標は…
鈴木「犬と触れ合うことも、お客様との関係を築いていくことも楽しいですから、まずはトリマーとして、ずっと生活を続けていくことが目標です。そしていつの日か独立して、自分のお店を持てたら最高ですね」
犬が好きで、接客も好きな人にとっては、生涯続ける価値のある技術職。実際に何年も働いている先輩方がそう感じているという事実は、なんだかとっても心強い! 最終的にどのようなトリマーになるのかは人それぞれだけど、最初に「どこで学び、どこで働くか」で方向性や取得のスピードがある程度決まってくるみたい。これからトリマーを目指す人は、それぞれの目標やライフスタイルに合わせて、まずは学校や働き口をじっくり選ぶところから始めてみては?
取材協力
- ●DOGGYBERRY (ドギーベリー)
- ●神奈川県相模原市中央区横山4-24-10
- ●TEL:042-751-2203
- ●営業時間10:00~18:30
- ●第1・第3火曜日定休
- ●HP:http://www.doggyberry.com/
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