七輪焼肉 安安の “ココだけ”トップインタビュー
“安全で安心 さらに安く”を頑なに貫く。その先に、ドカンと弾ける成長が待っている
社長略歴
川上富達(かわかみ とみたつ)氏
1956年4月生まれ、62歳。鹿児島県与論町出身。7人兄弟の6番目として生まれる。上京したのは法政大学短期大学部入学時。卒業後、吉野家に就職。「どん亭大井町店」での独立創業を経て、1988年に会社設立。2000年に焼肉業態の「安安」を立ち上げて以降、出店が加速し、現在にいたる。ミャンマーを母国とする妻との間に3歳と5歳の子どもあり。
■株式会富士達 ■本社/神奈川区鶴屋町3-32-13第二安田ビル8F ■創業/1982年6月 設立/1988年2月 ■従業員数/約2,100名(正社員:約230名) ■事業内容/焼肉チェーン店「七輪焼肉 安安」の経営。直営店125店舗・FC店11店舗。「七輪焼肉Big安」「Mr・チャーハン」など他業態計8店舗(2018年8月現在)
カルビ、ロース、トントロなどを1皿290円、アサヒスーパードライの中生も290円で提供する「七輪焼肉 安安」。その出店が加速している。2018年の7月だけでも、関東エリアに4店舗を新規オープンさせた。規模の拡大によって仕入れパワーが増し、安さだけではなく、肉質も年々向上。経済のプラス成長で飲食業界の低価格競争が終わろうとする中、一切ぶれることなく「安全で安心 さらに安く」を貫いてきた姿勢が、着実に安安ファンを増やしている。
インタビュアー
ディップ株式会社 ビジネスソリューション事業部 事業部長 佐賀野淳
今年の夏は、いくらなんでも暑すぎます
―本日はお会いするのを、楽しみにしていました。ここのところ猛暑が続いていますが、「七輪焼肉 安安」の売り上げに影響はありますか?
川上:ちょっと暑すぎますね(笑)
―夏にビールと焼肉はピッタリですが。
川上:さすがにここまで暑いと売り上げは若干落ちる傾向にあります。特に、当店は七輪で肉を焼くスタイルなので、暑いイメージがより強くなるのでしょう。
―夏休み期間中の業績というのは、本来、どうなんですか?
川上:1年の中で成績が良いのは3月と12月、夏休み期間はその次に好調な時期です。
―夏休みに売り上げが伸びるのは、家族連れのお客さまが多いからですか?
川上:週末の売り上げに関していうと、会社勤めの方のご利用が多い駅近型の店舗が平日とそう変わらないのに比べ、郊外型の店舗は平日の2倍ぐらいに増えます。この数字も、家族連れのお客さまの多さを表していると思います。
どうも、特に若者が健全になっているようですね(笑)
―以前はなかったランチ営業の店舗を増やしていらっしゃいます。
川上:お客さまのニーズの変化に対応したものです。「七輪焼肉 安安」のウリの一つは、早朝6時までの営業ですが、近年、深夜帯の来店率が低下傾向にあるため、閉店時間を5時、4時、2時、そして24時と切り上げています。
―その分、深夜から早朝にかけての売り上げが減るわけですが。
川上:ランチ営業でその分を補うとともに、新たな顧客の開拓をしようという狙いです。
―深夜から早朝にかけて来店されるお客さまの数が減っている理由は?
川上:どうも、特に若者が健全になっているようですね(笑)
―なるほど(笑)
川上:深夜に街をプラプラする若者が減っているように感じています(笑)
2,300 円以内でご満足いただける点が強みです
―ご家族を中心に、会社勤めの方や学生の皆さんなど、幅広い層のお客さまから支持されている理由を教えてください。
川上:お腹もお財布も満足、これです。単品での価格上限を 税抜き490 円に設定し、お客さま1人当たり 2,300 円以内で飲んで食べてご満足いただける焼肉店を実現できているのが、ご好評いただいている主な理由だと考えています。
―それでいて値段から受けるイメージより、肉質も良いと評価が高まっています。
川上:チェーン店化を通じた規模の拡大で、仕入れ力が増しているおかげです。仕入れた肉を加工する自社加工センターを持つなど、同じ値段でありながら、より質の良い肉を提供できる組織づくりも地道にやってきました。
―店舗を施工する部門も自社でお持ちとか?
川上:はい。これもローコストで出店できる理由の一つで、その分、お客さまに還元できています。施工スピードも速く、一般の業者に発注すると3ヵ月かかるところを1ヵ月弱で済むほどです。
―肉の買い付け、そのものに関しては?
川上:いまは商社に依頼していますが、店舗数を200程度まで増やした段階で、自社による肉の買い付けを行いたい。牛肉の本場、米国と豪州の食肉パッカーから直接買い付けるためには、その程度の規模が必要とされているからです。
起業のきっかけは「吉野家」との出会いと別れです
―創業されたのは1982年。1956年に生まれていらっしゃるので、26歳という若さでの創業となります。その経緯は?
川上:私は鹿児島県最南端の島、与論島の出身で、7人兄弟の6番目です。兄たちはみな島を出ていきました。その中の1人が東京の立川で電気店を経営していた。その兄の影響もあって、漠然と独立起業を意識していました。
―島を出られて上京されたのは、法政大学短期大学部入学がきっかけらしいですね。
川上:親の負担を少しでも減らそうと、牛乳配達などで生活費を自分で工面しながら大学を卒業しました。就職したのは、当時、国内に200店舗、アメリカにも約10店舗出店していた牛丼チェーンの吉野家です。『海外へ』と書かれていた求人広告のキャッチフレーズが心に響きました。この吉野家との出会いと別れが今につながっています。
―どういうことですか?
川上:吉野家は私が入社して2年目に倒産するのですが、そのわずかな期間にチェーンストア経営理論を学びました。日本の経営コンサルタントの草分け、渥美俊一氏の著作集が私にとって経営の教科書です。
―渥美氏のチェーンストア理論に感銘を受けられたわけですね。
川上:ぜひ、この素晴らしい理論を実践したいという想いにかられたことが、吉野家倒産から2年後に独立し、牛丼店の「どん亭」を自ら開業したことへとつながっていきます。
「牛角」のフランチャイズ経営も一時は考えました
―「七輪焼肉 安安」1号店の開業は2000年。創業から18年もかかっています。
川上:その間、「どん亭」の新店立ち上げと閉鎖を繰り返していました。苦労したのは、やはり人とお金です。知名度のない会社やお店に人は来ません。銀行もお金をなかなか貸してはくれませんでした。
―「どん亭」は何店舗まで増やされたのですか?
川上:18年間かけて12店舗です。深夜営業の人手不足を補うために何度も夜通し働くなど苦労しました。
―いわば一進一退状態だった経営が、2000年の「七輪焼肉 安安」開業で一気に好転します。どういう経緯で「七輪焼肉 安安」という業態を生み出されたのか興味があります。
川上:三軒茶屋の2階建て店舗が土地付きで売りに出ていました。バブルが崩壊して月日も経っていたので、以前の売価約3億円の3分の1ほどに値段が下がっていたんです。
―「どん亭」の出店場所として買われたわけですよね。
川上:価格交渉をして9000万円ほどで手に入れ、すぐに1階を「どん亭」にしました。でも、お客さまの入りが悪い2階への出店は厳しい。もっと集客力がある業態はないかと思案して、たどり着いたのが、当時人気が出始めていた「牛角」のフランチャイズ経営です。
―「牛角」の出店は勢いがありましたからね。
川上:すぐにチェーン本部に打診しました。ところが断られた。「周りに4店舗牛角があるから、三軒茶屋のその場所での開業は許可できません」と(笑)
1皿100gで290円。これは最初から決めていた価格です
―それでもあきらめず、同じ焼肉業態のお店を自前で立ち上げられるわけですね。逆に競合がひしめく厳しい環境、プラス2階というマイナス立地だったことが、「七輪焼肉 安安」という強い業態を生み出す原動力になったということでしょうか。
川上:当時は「牛角」よりも安い値段で提供する店をつくろうと、それだけを考えました。
―どこから取り組まれましたか?
川上:徹底的にリサーチしました。すると、大阪の梅田に行列の絶えない焼肉店があることがわかった。すぐに視察に行きました。今でも忘れません。平日の水曜日なのに、夕方の6時前から行列ができていた。驚きました。
―安かったわけですか?
川上:150gの肉を390円で出していました。アサヒスーパードライの中生にいたっては190円という常識を覆す安さでした。「これだ!」と。すぐに付き合いのある肉の卸業者を連れて再訪問。「これと同程度の肉を、100g290円で出したいが」と聞いたんです。「できる」という返事だったから、よし、これでいこう、と。
―ビールに関しては?
川上:アサヒスーパードライの中生を290円で出すことを決めました。本当は190円にしたかったのですが、「首都圏では290円でも破格に安いから」と、お酒の卸業者に説得されて。悔しかったので、オープン特化として190円で最初は出しましたが(笑)
「安い、安い」と喜ばれ、月商はいきなり2倍を超えました
―いよいよ新業態のオープンです。いざ、フタを空けてみて、どうでしたか?
川上:驚くほどお客さまに来ていただけました。1階の「どん亭」の月商の2倍をオープン1ヶ月目から軽く超しましたからね。
―大きな手応えを感じられた、と。
川上:嬉しかったのは数字の面だけではありません。当時は牛丼一杯290円が当たり前の時代で、「安い」と言ってくれるお客さまはいなかったのですが、焼肉は同じ290円で「安い」「安い」と喜んでもらえた。しかも、追加で何皿もオーダーしていただける。いい店をつくったなと感じたことをはっきり覚えています。
―すぐに2号店を、翌年の2001年に3号店、4号店をオープン。以降、年間3店、6店、14店、17店と出店が加速します。そして、現在、125舗。2018年の7月だけでも、関東エリアに4店舗を新しく出しておられます。好調ですね。
川上:2018年8月からの1年間で、新たに30~40店舗の新規出店を予定しています。
メニューから値付けまで、決定権を現場に委ね始めています
―チェーンストア理論の弊害もあると聞きます。お客さまに愛し続けられる店にするために、従来の経営手法を手直しされているところはありますか?
川上:本部がすべて決めて各店舗はオペレーションに専念するというスタイルでは、店舗が本当に地域の人々に愛される存在にはなれません。各店舗がもっと地元に密着し、地元の方のニーズを拾いあげるスタイルへと変わっていく。こうした、マーケットインの行動を各店舗に促すため、メニューや、販促イベントの中身から値決めまで、店舗を統括するブロック長に権限を持たせるようにしています。
―地元のニーズを拾いあげる具体的な行動とはどういうものですか?
川上:たとえば、町内会の催し物に積極的に参加するなど、地元の方の中に入り込んでいく活動からはじめています。地元の一員だと認められることで、宴会ニーズなども取り込めますし、「こんなメニューが欲しい」という声も集められます。
―経営者としての視点と行動を、各店長やブロック長に求められているわけですね。
川上:定めた利益水準を超えた分の3割をブロック長や店長に配分するなど、がんばった人が報われる仕組みも新たにつくりました。これも、経営の当事者意識をより強く持ってもらうための施策の一つです。
シニア層の300人採用を掲げ、積極的に取り組み始めました
―ところで、アルバイトスタッフの確保はどうされているのですか?
川上:時間帯にかかわらず、人材の確保は常に最重要課題です。特に外食産業は労働集約型で、人材をいかに集められるかにかかっていると痛感しています。
―去年から積極的なシニア採用をはじめられたとお聞きしましたが、それも打開策の一つですね。
川上:いまのシニアはアクティブです。人口構成的にも、シニアが4人に1人、3人に1人、2人に1人と、今後増えていくとされています。そうなると、国内の若者中心のスタッフ構成だと店舗運営が先行き、成り立っていかなくなる。そう考えて、去年、シニア層の300人採用を掲げ、積極的に取り組み始めました。
―店舗に貼りだすシニア採用向けのポスターも作られたのですね。
川上:はい。シニア層はウェブでの申し込みなどに抵抗感があるため、店舗に応募用紙を置くなど、工夫をしています。
もっと働きやすい環境づくりを進めていきます
―シニア層採用で、他に取り組まれていることはありますか?
川上:たとえば、タブレット端末の導入です。お客さまに直接オーダーしていただくこの仕組みを取り入れようと思ったのは、店員がオーダーを入力するハンディーターミナルをやめるためです。
―シニアには使いづらいと。
川上:私自身がそうですが、細かい文字が見えにくくなっていて、オーダーを入力する作業が難しいんですよ。照明の下にわざわざハンディーターミナルを持っていって入力している店員の姿を見て、決めました。
―かなりのコストがかかるはずですが。
川上:シニア層がネックになることを取り払いながら、働きやすい環境づくりを進めていく。これができなければ採用は失敗します。
―深夜帯の営業時間を減らしたり、シニア層や主婦層が働きやすいランチ営業の店舗を増やしたりしているのも、働きやすい環境づくりの一環ですね。
川上:はい。出勤も週に1日からでOKですし、働く時間も1時間だけでもいいと、ルールを変えました。交通費全額支給や社会保険の付与に加え、店舗に血圧計を導入して測定を促すなど、採用者のための健康管理策も強化していきます。
―労働時間に制約があるけれど正社員と待遇が同じ「時間限定社員制度」も導入されました。
川上:こちらが決めた就業ルールにあてはまる人を応募するのではなく、働く人の希望に合わせた就業条件をこちらが用意し、募集する。採用に関してもマーケットインの姿勢を貫くことが、いまの我々に求められていることだと感じています。
若者、シニア、主婦、外国人。スタッフの多様性が発展を支えます
―「人」という点でいえば、外国人のアルバイトスタッフも多いと聞きました。
川上:吉野家での2年間、その後、「どん亭」を立ち上げてからの18年間、そして「七輪焼肉 安安」でのこれまで、常に外国人のスタッフに支えられてきました。
―外国人スタッフに対するイメージは?
川上:国籍に関わらず、日本にやってきて働く外国人スタッフの多くは、生活がかかっているため、一生懸命働いてくれます。無断欠勤もしません。そんな彼らと一緒に苦労を重ねてきたからいまがある。私は外国人を信頼しているし、大好きなんです。
―以前は中国籍のスタッフが多かったのですか?
川上:そうです。いま、外国人スタッフの9割近くはベトナム人で、200人ほどいますね。
―外国人スタッフの採用と活用に関して、具体的にはどんな施策を?
川上:今年2月にベトナムの「ANAN BBQホーチミン店」をオープンさせたのですが、この海外進出では、国内で働いてくれているベトナム人のアルバイトの中から優秀な人材を選び、通訳兼コーディネーターとして抜擢しました。
―なるほど。
川上:海外での多店舗化を通じて、海外店舗と国内店舗の間で外国籍の人材の流動化を促していくなど、新たな人材を外国から発掘する仕組みもつくろうとしています。
―若者はもちろん、シニア、主婦層、そして外国人と、様々な背景を持つ人材、すべてに期待をされているわけですね。
川上:国籍や年齢や性別に関わらず、色んな方に働く場を提供したい。そのためにも、国内外で出店数を500、1000と増やしていきます。
上場後の爆発的な成長を通した社会貢献が真の目的です
―以前目標に掲げていた2020年の株式上場を、先延ばしにされた理由は?
川上:株式公開前は、柔軟に経営の意思決定ができます。その間に、やるべきことがいくつかあると気付いたからです。
―ぜひ、教えください。
川上:まず一つは、育ててきたヒット業態の「七輪焼肉 安安」を核にして店舗数を増やし、売上高も200億、300億と増やすこと。規模が大きくなると、社会への影響力も増しますし、規模の拡大に付随する新たなビジネスの芽も出てきますから。
―もう一つは?
川上:新事業に先行投資をするなど、将来の発展のための種蒔きをすることです。
―「Mr・チャーハン」などの飲食他業態を、商業施設のフードコート展開を見据えて昨年開発されるなど、「七輪焼肉 安安」だけに頼らない経営に挑まれていますね。
川上:海外進出も今年初めて果しましたし、介護事業にも進出します。チェーン店の経営で培ったノウハウを活かせば、介護サービスをより安く提供できる。いまの日本が抱える大きな課題の解決に少しでも役立ちたいという想いがあります。
―規模の拡大と事業の多角化、この2つの他にも、株式上場の旗を一旦降ろした理由がありますか?
川上:人の育成です。経営に携れるレベルで、かつ生え抜きの人材をもっと育てなければいけません。この3つができたとき、上場を弾みに、人・モノ・金を集め、ドカンと弾けるほどの成長を遂げることができる。株式上場がゴールではなく、その後の成長を通したさらなる社会貢献が目的ですからね。私だってまだまだ若い。この先10年は最前線で暴れまわりたいと思っています(笑)
―本日はありがとうございました。
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